電子ピアノとアコースティックピアノの一番大きな違いは、その発音構造にあります。金属弦をフェルトのハンマーで叩いて音を鳴らす生のピアノと違い、電子ピアノでは電気信号が伝わることで音が鳴っています。これにより、ピアノ演奏において一番重要な「表現力」の向上が、電子ピアノでは難しいともいわれています。
しかしながら、各社の技術向上により単に録音した音を鳴らすだけでなく、音を表現できるような電子ピアノも製作されています。
ここでは弊ショップで販売しているカワイの電子ピアノについて、音に関わる工夫を説明いたします。ページの最後には、サウンドで選ぶ際におすすめの機種を紹介しております。お忙しい方は、ページ最後の部分だけでも、ぜひご覧くださいませ。
音の再現
デジタルピアノの発音の特徴や違いを知るために、まずはアコースティックピアノの基本的な発音構造について簡単に説明いたします。
アコースティックピアノでは、鍵盤を押すとフェルトの付いたハンマーが動き、そのハンマーが金属の弦を叩きます。そして長さの異なる弦が震え、その振動が響板にも伝わることで、普段耳にするようなピアノの音が鳴っているのです。
しかし一つの鍵盤を弾いても、単に一つの音だけが響くわけではない、ということをご存じでしょうか。音叉や時報の音など、一つの振動数のみで構成されている「純音」と比較するとその違いがよく分かるように、ピアノは複数の音が複雑に絡み合って鳴っているのです。これは「倍音構造」と呼ばれており、ピアノのみならず、自然界に多く存在する音の構造です。
そもそも、音の高さは弦の振動数によって決まります。この「基本振動数」を決められた回数に合わせることで、「ド」や「レ」などの音階の音を鳴らすことができるのです。ところがこの基本振動数のほかに、同時に2倍、3倍、と整数倍の振動がいくつも生じます。この振動を倍振動と呼び、倍振動によって生まれる音を倍音と呼びます。ピアノのように異なる音の高さの弦が近くにあるような楽器では、共鳴により、より倍音が鳴りやすくなると言えるでしょう。
またこの他にも、ピアノの大部分の音が3本ないし2本の弦で構成されていることや、弦振動が駒や響板、フレームなど多様な物質伝わっていくことなど様々な要因を受けて、響きが複雑に絡みあっていくのです。
こうして複雑な響きを生み出すアコースティックピアノの音を、デジタルピアノで再現することは簡単ではありません。それでも、以下にご説明する様々な技術により、電子ピアノは本物のピアノにより近づいています。
サンプリング
電子ピアノの「音」において、最も重要であるのはサンプリングです。これはアコースティックピアノの音を実際に録音することを指しますが、このサンプリングした音が、電子ピアノにおける音の根幹となります。サンプリングの方法はメーカーによってはもちろん、電子ピアノのグレードによっても変わってきます。また、サンプリングをするピアノも、YAMAHAではヤマハのピアノやベーゼンドルファーのピアノを、KAWAIではカワイのピアノをと、メーカーによって異なるのも大きな特徴です。
KAWAIでは2種類のサンプリング方法により、Shigeru Kawaiシリーズのピアノなどの音を採音しています。
・88鍵ステレオサンプリング
88鍵ステレオサンプリングとは、グランドピアノの全ての音を、一音一音丁寧に録音していく方式です。ピアノの周辺にマイクを立て、タッチの強さも変えながら録音をしていくことで、ピアニッシモからフォルティッシモまで幅広く表現することが可能になっています。
・マルチチャンネルサンプリング
マルチチャンネルサンプリングとは、音の響きや広がり、部品ごとの音振動などを考慮し、ピアノ周辺の複数の位置から録音して、それらを組み合わせて音源にする方法のことです。こちらも88鍵全ての音を一音一音丁寧に録音していきます。ステレオサンプリングと異なり、より多くの位置にマイクを立てることで、音の余韻までもを繊細に採音することができます。これにより、まるで本物のグランドピアノで弾いているかのような、豊かな表現が可能になります。
モデリング
アコースティックピアノでは、様々な音が複雑に絡み合って響いていることは前述の通りですが、電子ピアノでもこの複雑な響きの絡み合いを再現する工夫が施されています。それがモデリングです。モデリングとは、アコースティックピアノにおける発音時の仕組みを真似て、電子ピアノでも同様に音が響くように、打鍵時にコンピュータが計算をして音を作り出すシステムを指します。これにより、単にサンプリングした音源を出力するのではなく、より複雑でリアルな響きを持った音を楽しむことができるのです。
KAWAIの電子ピアノではサンプリング同様、2種類のモデリング技術が存在します。
・アコースティックレンダリング
アコースティックレンダリングは、弦・駒・ダンパー・フレーム・響板など、打鍵時に相互に共鳴して発生する、グランドピアノ独特の荘厳な響きを再現しています。KAWAIの電子ピアノでは最も主立って使われており、CA901、CA701、CA501、CN301、ES920において用いられています。
・88鍵共鳴モデリング
88鍵共鳴モデリングでは、様々な状態のタッチに加え、和音やペダル操作によっても複雑に変化するグランドピアノの共鳴現象を解析し、リアルタイムで再現しています。また、音域で異なるダンパーシェイプによる影響もモデリングすることで、ピアノの複雑で艶やかな共鳴感を表現し、神秘的で艶やかな音の響きを実現しているのです。CA901及びCA701における、SK-EXレンダリング音源に使用されています。
音源
ここまで、サンプリングやモデリング技術などを組み合わせることで、電子ピアノであっても表情豊かな音を奏でることが可能である、ということはお分かりいただけたかと思います。ここでは、KAWAIの電子ピアノにおいてグレードに合わせて使用されている、代表的な音源についてご紹介いたします。
・HI音源
HI音源とは、KAWAI独自のハーモニック・イメージング・テクノロジーによる音源です。ES120に搭載されており、フルコンサートグランドピアノ「SK-EX」の88鍵すべてを、タッチの強弱に分けて、一音一音丁寧にステレオサンプリングしたものになります。力強いフォルテッシモから繊細なピアニッシモまで、スムーズな音の推移を再現しています。
・PHI音源
PHI音源とは、KAWAI独自のプログレッシブ・ハーモニック・イメージング・テクノロジーによる音源です。KAWAIが世界に誇るフルコンサートグランドピアノ、SK-EX及びEXの88鍵すべてを、タッチの強さ弱さに分けて一音一音丁寧にステレオサンプリングしています。力強いフォルテッシモから繊細なピアニッシモまで、スムーズな音の変化を再現しています。
・HI-XL音源
HI-XL音源もKAWAI独自のテクノロジーによる音源です。SK-EXの88鍵すべてを打鍵時の強弱により分け、一音一音丁寧にステレオサンプリングしています。弱打から強打までリアルで、スムーズな音色変化を実現しています。また、アコースティックレンダリングにより、相互に共鳴して発生するピアノの独特な響きをモデリング技術で再現しています。
・SK-EXレンダリング音源
ハイグレードモデルであるCA901とCA701で使用されているSK-EXレンダリング音源は、マルチチャンネルサンプリングと88鍵共鳴モデリング技術を組み合わせた、「SK-EXの響きを追い求めた」ピアノ音源です。複雑で芯のある音、繊細で柔らかいピアニッシモ、そして温かく透き通ったメゾフォルテから壮大に響き渡るフォルティッシモまで、広大なダイナミックレンジを持つSK-EXの音を再現しています。
電子ピアノの発音
ここまでご説明してきた電子ピアノの「音」は、すべてスピーカーを通って私たちの耳まで届きます。KAWAIではグレードに合わせて様々な種類のスピーカーを使用しており、アコースティックピアノの臨場感に近づけるよう工夫が施されています。ここではKAWAIの電子ピアノで使用されているスピーカーについて説明いたします。
スピーカーの種類
・フルレンジスピーカー
フルレンジスピーカーは、高音から低音までを一つのドライバユニットのみで音を出すことができるスピーカーです。これにより、小型の電子ピアノにも良質な音を鳴らすスピーカーを搭載することができます。KAWAIでは、ES120 Filoに12cmのフルレンジスピーカーを2つ、ES980にはさらに高性能な(8×12)cmのフルレンジスピーカーを2つ搭載しています。
・上面放射スピーカー(ディフュージングスピーカー)
通常、スピーカーから音が発せられると、スピーカー背面から出た音はボックスに反射してスピーカー内部に戻り、スピーカーの音質を悪化させてしまいます。そこで音響拡散器であるディフューザーを組み込むことで、スピーカーから出た音を拡散させ、音の出戻りを防ぐことができます。これにより、基音や倍音の解像度が改善され、中高音域が非常にクリアになるのです。またディフュージングスピーカーは音を拡散するため、小型のスピーカーを使用しても、大音量で良い音質の音を鳴らすことができ、繊細なタッチの変化にも反応がよくなります。
・ウーファー
ウーファーとは、ピアノ下部に下向きに付いている、低音を専門に出すスピーカーのことです。一つのスピーカーだけで低音や高音を細部まできれい鳴らすには、スピーカーの設計上どうしても限界があります。そこで音程を分割し、低音や高音のみを担うスピーカーを搭載することで、響きの限界を補うことができるのです。
・エアーツィーター
ウーファーとは対照的に、ツィーターとは高音を専門に鳴らすスピーカーのことを指します。エアーツィーターを搭載することで、グランドピアノの高音部に特有の澄み渡るような空気感や、緊張感を再現することができます。
・Twin Drive響板スピーカーシステム
生のピアノでは、鍵盤を押すとハンマーが弦を叩き、弦が振動します。その振動が響板に伝わり、音が増幅されて人々の耳に届くわけです。このTwin Drive響板スピーカーシステムでは、「響板が響き、音が聞こえる」というアコースティックピアノの発音構造自体を再現しており、本体背面にある響板を二つのドライブユニットで挟み、それを振動させることで音を鳴らしています。これによりグランドピアノの荘厳で伸びる低音や奥行き感のある響きを忠実に再現しているのです。
代表的なスピーカーシステム
KAWAIの電子ピアノでは、上記のスピーカーを組み合わせることでアコースティックピアノ、とりわけグランドピアノの音のを再現しています。ここではグレード毎に異なるスピーカーシステムの代表的なものについて説明いたします。
・Grand Feel Speaker System Pro
このスピーカーシステムはCA901に採用されています。Twin Drive響板スピーカー、フロントスピーカーであるダイレクトスピーカー、エアーツィーター、ディフュージングスピーカーである上面放射スピーカーを搭載しています。「響板を震わせて音を鳴らす」というピアノ本来の発音構造を忠実に再現することで、グランドピアノ特有の演奏者を包み込むような、そしてダイナミックで臨場感のある音場の再現に成功しています。
・Grand Feel Speaker System Full
このスピーカーシステムはCA701に採用されています。こちらはディフュージングスピーカーである上面放射スピーカー、エアーツィーター、スプレッドウーファーを搭載しています。CA901より手軽に、グランドピアノの本格的な音感を体験することができます。
・上面放射スピーカー搭載4スピ―カーシステム
このシステムは、上方向にはディフュージングスピーカーを、下方向には低音スピーカーであるウーファーを2つずつ搭載しております。グランドピアノは響板が地面に対して水平に張られており、音は上下方向に放出されます。そこでKAWAIでは、上面放射スピーカーとウーファーを組み合わせることで、グランドピアノの音の広がり方をも忠実に再現しているのです。弱音から強音、低音から高音まで、豊かな音の広がりを体感することができます。
各モデル紹介
ここでは、音源やスピーカーの点から、KAWAIデジタルピアノの各モデルを紹介いたします。
SK-EXコンクール / コンサート
‣SK-EXレンダリング音源
EX
‣HI-XL 88鍵ステレオサンプリング音源
‣アコースティックレンダリング
SK-5
‣PHI 88鍵ステレオサンプリング音源
Grand Feel Speaker System PRO
Grand Feel Processing PRO
最大同時発音数:256音
SK-EXコンクール / コンサート
‣SK-EXレンダリング音源
EX
‣HI-XL 88鍵ステレオサンプリング音源
‣アコースティックレンダリング
SK-5
‣PHI 88鍵ステレオサンプリング音源
Grand Feel Speaker System FULL
Grand Feel Processing STANDARD
最大同時発音数:256音
SK-EXコンクール / EX
‣HI-XL 88鍵ステレオサンプリング音源
‣アコースティックレンダリング
SK-5
‣PHI 88鍵ステレオサンプリング音源
上面放射スピーカー搭載
4スピーカーシステム
最大同時発音数:256音
SK-EXコンクール / EX
‣PHI 88鍵ステレオサンプリング音源
4スピーカーシステム
‣ツィーター5cm×2
‣ウーファー13cm×2
最大同時発音数:192音
SK-EXコンサート / EX / SK-5
‣PHI 88鍵ステレオサンプリング音源
‣アコースティックレンダリング
上面放射スピーカー搭載
4スピーカーシステム
最大同時発音数:256音
SK-EXコンサート / EX
‣PHI 88鍵ステレオサンプリング音源
2スピーカーシステム
‣フルレンジスピーカー12cm×2
最大同時発音数:192音
SK-EXコンサート / EX
‣HI-XL 88鍵ステレオサンプリング音源
‣アコースティックレンダリング
SK-5
‣PHI 88鍵ステレオサンプリング音源
フルレンジスピーカー(8×12)cm×2
最大同時発音数:256音
SK-EXコンサート / EX
‣HI 88鍵ステレオサンプリング音源
2スピーカーシステム
‣フルレンジスピーカー12cm×2
最大同時発音数:192音
サウンドから選ぶおすすめの電子ピアノ
サウンドを重視して電子ピアノをご検討される場合、より豊かな音を奏でられる音源を搭載し、スピーカーも4つ以上搭載されているモデルがおすすめです。
特に、ピアノ教室でピアノを習われている方、またアコースティックのピアノに買い替える可能性がある方には以下のモデルがおすすめです。表現力向上のためにもアコースティックピアノの使用をおすすめしたいところではございますが、レンダリング機能や多種類のスピーカーを搭載した以下のモデルであれば、ピアノの入門にはとてもよいでしょう。